高齢の親との会話、なぜかかみ合わない?経験や価値観の差を埋めるコミュニケーション
高齢の親御さんとの日々の会話の中で、「なぜか話がかみ合わない」「こちらの意図がうまく伝わらない」と感じることは、多くの方が経験されるのではないでしょうか。長年連れ添った家族であるにも関わらず、時に友人や地域の方とのやり取りよりも難しさを感じてしまうこともあるかもしれません。
これは、親御さんとの間に愛情や尊敬がないということでは決してありません。むしろ、長い年月の中で培われたお互いの経験、価値観、そして時代の変化が、コミュニケーションにおいて思わぬ「ずれ」を生じさせていることが原因として考えられます。
この記事では、高齢の親御さんとの会話で生じがちなすれ違いの背景にあるものを理解し、お互いにとってより心地よく、円満な関係を保つためのコミュニケーションのヒントをご紹介します。
高齢の親との間にすれ違いが生じる背景
親御さんとの会話で「どうしてそう考えるのだろう」「私の言いたいことが伝わらない」と感じる時、そこにはいくつかの要因が影響している可能性があります。
一つは、長年の経験に基づく固定観念です。親御さんの世代は、特定の社会背景や価値観の中で人生の多くの時間を過ごされてきました。その経験はかけがえのない財産ですが、時に現在の状況や新しい情報に対する柔軟な受け止め方を難しくすることがあります。「私の時はこうだった」「それが当たり前だ」という強い信念は、新しい提案や異なる考えを受け入れる際の壁となることがあります。
次に、価値観や情報源の違いです。社会は常に変化しており、新しい技術、生活様式、倫理観などが次々と生まれています。インターネットやスマートフォンが普及した現代の情報伝達スピードや内容は、親御さんが若い頃に経験されたものとは大きく異なります。情報源やそこから得られる知識の差が、物事に対する見方や判断基準の違いを生み出し、会話のすれ違いにつながることがあります。
また、「親として」の役割意識も影響することがあります。たとえ子が成人し、それぞれの人生を歩んでいても、親の立場から子や孫を心配し、良かれと思ってアドバイスをしたいという気持ちは根強く残っているものです。この「心配」や「アドバイス」が、受け手にとっては「干渉」や「押し付け」と感じられてしまうことで、会話がこじれる原因となることがあります。
さらに、加齢に伴う聴覚や認知機能の変化も、コミュニケーションに影響を与える場合があります。物理的に聞き取りにくかったり、一度に処理できる情報量が変化したりすることで、会話のペースや内容の理解にずれが生じることも考慮に入れる必要があります。
円満な関係を保つための具体的なコミュニケーションのヒント
これらの背景を踏まえた上で、高齢の親御さんとの関係を円満に保つために、日々のコミュニケーションで意識したい具体的なヒントをご紹介します。
1. 相手の背景を理解しようとする姿勢を持つ
親御さんの発言に対して、すぐに否定したり自分の意見を押し付けたりするのではなく、「なぜそう考えるのだろう」と一度立ち止まって考えてみましょう。その考えの背景には、親御さんが生きてこられた時代の経験や、特定の出来事に対する思いがあるはずです。
単に話を聞くだるだけではなく、相手の話に関心を持ち、理解しようと努める姿勢を示すことが大切です。例えば、「〇〇というご経験があったから、そうお感じになるのですね」のように、相手の経験や感情に寄り添う言葉を添えることで、親御さんは「自分の話を聞いてもらえている」「理解してもらおうと努力してくれている」と感じやすくなります。これは、教育現場で生徒や保護者の話に耳を傾け、背景を理解しようと努めた経験とも通じる部分があるのではないでしょうか。
2. 「私はこう思う」という穏やかな伝え方を心がける
親御さんの意見に対して異なる考えを持つ場合でも、頭ごなしに否定するのではなく、自分の考えや状況を穏やかに伝える工夫が必要です。心理学における「アサーション」(相手も自分も大切にする自己表現)の考え方が役立ちます。
例えば、「それは違う」と直接的に言うのではなく、「〇〇という点は、私の考え方とは少し違うかもしれません。今の状況では、△△のようにする方が私にとっては合っているように感じます」のように、「私」を主語にして、自分の感情や状況を具体的に伝えます。相手の意見を尊重しつつ、自分の立場や希望を明確に伝えることで、感情的な対立を避け、建設的な話し合いに進みやすくなります。
3. 過去の経験を尊重しつつ、共通の話題や未来の話をする
親御さんは過去の経験談をよく話されるかもしれません。時には同じ話を何度も聞くことになるかもしれませんが、まずはその経験に耳を傾け、尊重する姿勢を示しましょう。「そんなことがあったのですね」「それは大変でしたね」など、共感を示す言葉を挟むことで、親御さんは安心して話すことができます。
その上で、会話を一方的なものにしないために、親御さんが関心を持ちそうな現在の出来事や、共通の趣味、今後の楽しい計画など、未来に向けた話題を適度に取り入れることを意識しましょう。「今度〇〇へ行ってみませんか」「最近こんな面白いことがあって」など、提案や情報提供の形で話を進めると、会話の幅が広がります。
4. 期待値を調整し、完璧を求めすぎない
長い人生経験を持つ親御さんの考え方や価値観は、簡単には変わらないかもしれません。また、全ての点でお互いを完全に理解し合うことは、親子であっても難しい場合もあります。
コミュニケーションにおける期待値を調整し、「全てを分かり合えなくても良い」「異なる意見があって当然だ」と割り切ることも大切です。親御さんを変えようとするのではなく、ありのままの親御さんを受け入れ、その中でどのように良好な関係を築いていくかに焦点を当てましょう。感情的になりそうになったら、一度距離を置くなど、自分自身の心の平穏を保つ工夫も必要です。
5. 第三者として関わる際の距離感
ご自身の親御さんだけでなく、例えば息子さんご夫婦と親御さん(ご自身の配偶者)の間で意見の対立があった際に、第三者として関わることもあるかもしれません。このような「板挟み」の状況では、どちらか一方の肩を持つのではなく、双方の立場や思いを公平に理解しようと努める姿勢が重要です。
感情的な仲介は避け、まずはそれぞれの話にじっくり耳を傾けましょう。そして、可能であれば、双方の気持ちや置かれている状況を、感情的にならずに穏やかな言葉で相手に伝える橋渡し役を試みることもできます。ただし、無理に解決しようとせず、時には見守ることも大切な役割であることを覚えておきましょう。ご自身の経験を活かしつつも、あくまで当事者の意思決定を尊重する姿勢が、信頼関係を維持するためには不可欠です。
まとめ
高齢の親御さんとのコミュニケーションにおけるすれ違いは、多くの場合、長年の経験や価値観、そして時代の変化という、深い部分に根ざした違いから生じます。これは、愛情がないわけでも、どちらかが間違っているわけでもありません。
大切なのは、この「違い」があることを認識し、お互いを尊重しながら、歩み寄る努力を続けることです。親御さんの背景にある経験や思いに耳を傾け、自分の考えを穏やかに伝え、そして完璧な理解を求めすぎないこと。これらのコミュニケーションのヒントは、親子の関係だけでなく、家族、地域、そしてかつての教え子たちとの関係を円満に保つ上でも、きっと役立つはずです。
経験豊富な皆様だからこそできる、穏やかで知的なコミュニケーションを通じて、大切な方々との関係性をより豊かなものにしていかれることを願っております。